『橋下知事判決―「重く受け止める」なら』:高裁で「批判が緩和された」ことを隠蔽する朝日社説

酔っ払いのうわごと2009-07-03
■[朝日新聞][司法・裁判]橋下徹知事批判社説―死刑廃止論者の敵だから?
http://d.hatena.ne.jp/oguogu/20090703/1246607912 より

橋下知事判決―「重く受け止める」なら

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(cache) asahi.com朝日新聞社):社説 2009年7月3日(金)
http://s03.megalodon.jp/2009-0703-1412-15/www.asahi.com/paper/editorial20090703.html
 橋下徹大阪府知事のタレント弁護士時代の発言が、
●再び司法の場で厳しく批判された。<略>
 橋下氏は判決後、懲戒請求を呼びかけた発言が違法とされたことを「重く受け止めます」とする一方で、「言論活動がどこまで認められるのか判断を求めたい」と上告する意向を示した。
 ●上告するのはもちろん自由だが、この姿勢は分かりにくい。<略>

 歯切れのいい発言で世論を味方につけ、既存の政府の政策にいどんだり政党にもの申したりする力量は、なかなかのものだ。
政権交代がありうる状況の中で、地方分権を政治の大きな争点に押し出す役割を果たすことになるかもしれない。
 だからこそ、●いつまでもこの問題を引きずらず、
弁護団に謝罪してけじめをつけてはどうか。 それが政治家としての飛躍の条件ではないか。

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朝日新聞が、橋下徹大阪府知事の裁判をわざわざ今日の社説にしたのには驚かされました。言うまでも無く、今日は東京都議会選挙の告示ですし、朝日新聞は来年度概算要求に関する社説も、まだ書いていないのですから、取り上げるにしろ今日である必要があったのでしょうか。『いつまでもこの問題を引きず』っているのは朝日新聞の方ではないのかと言いたくなります。

それにしても橋下知事の発言は、『再び司法の場で厳しく批判された』のでしょうか。私には『厳しく批判された』と言うよりは「批判が緩和された」の方が、この控訴審判決の評価としては適当だと思うのです。第一、朝日新聞も書いているように『一審が名誉棄損と認めた一部の発言について、(略)それを認めず賠償額を減額』されています。賠償金も一審の 800万円の半分以下である360万円に減額もされました。敗訴は、敗訴かも知れませんけれど、橋下知事にとっては控訴するだけの意味はあったと言って良いと思います。

思えば、朝日新聞は一審判決の後の社説では、このような事を言っていました。

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橋下TV発言―弁護士資格を返上しては
(cache) asahi.com朝日新聞社):社説
http://s04.megalodon.jp/2008-1003-1136-57/www.asahi.com/paper/editorial20081003.html
http://d.hatena.ne.jp/oguogu/20081003/1223020298(社説全文はブログでも)
 その発言をきっかけに大量の懲戒請求を受けた弁護団が損害賠償を求めた裁判で、広島地裁は橋下氏に総額800万円の支払いを命じた。判決で「少数派の基本的人権を保護する弁護士の使命や職責を正しく理解していない」とまで言われたのだから、
●橋下氏は深く恥じなければならない。<略>
 橋下氏は判決後、弁護団に謝罪する一方で、控訴する意向を示した。判決を真剣に受け止めるならば、控訴をしないだけでなく、弁護士の資格を返上してはどうか。謝罪が形ばかりのものとみられれば、
●知事としての資質にも疑問が投げかけられるだろう。

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今日の社説も十分に感情的だと思いますけれど、この時の社説は、まさにヒステリー状態と言っても良いのではないのでしょうか。私は、この時も気に入らない判決には最高裁で下された物でさえケチを着ける朝日新聞が、一審判決で橋下知事を断罪するダブル・スタンダードを批判しました。しかし、今回の判決を受けて改めて読み返してみると、突っ込みどころが一杯あります。

朝日新聞が『橋下氏は深く恥じなければならない』と書いたのは、控訴しても判決が変わらないと考えていたからでしょう。それとも一時の感情で書いて、後で読み返される事を想定していなかったのでしょうか。
今回は、●損害賠償が減額されただけですから、『深く恥じなければならない』のは朝日新聞の方でしょう。これで、最高裁で無罪にでもなったら、朝日新聞は謝罪でもするのでしょうか。

また、朝日新聞は、この社説で
名誉毀損の判決を●『きわめて常識的な判断だ』と歓迎していたのですけれど、
名誉毀損が認められなくなった事をどう考えているのでしょうか。
名誉毀損が否定されたのですから、朝日新聞の常識も間違っていた事になるのです。
朝日新聞の常識が非常識だとされているのは昔からだと言われれば、それまでですけれど。

それにしても、どうして朝日新聞は、橋下知事をここまで批判しなくてはならないのでしょうか。私は、本当なら朝日新聞は光市殺人事件は世間の記憶から早く消えて欲しいと考えているのだと思います。死刑廃止論者にとっては、都合の悪い事件でしたから。何と言っても、未成年が自分が未成年だから死刑にならないと思って殺人を起こしてしまったというのは、死刑を存続する有効性を示した事になります。

橋下知事への裁判も出来れば起こして欲しくは無かったのでしょう。今日の社説でも、流石に『上告するのはもちろん自由』と姿勢を和らげていますけれど、朝日新聞が上告して欲しくないのは明らかだと思います。前回は、上から目線で弁護士を辞めろとまで書いたのに、今回は下手に出るなど硬軟の使い分けをするところに朝日新聞の迷いがあるのかも知れませんけれど。

しかし、それなら社説に取り上げなければ良さそうな物ですけれど、そこに朝日新聞のジレンマがあるのだと思います。朝日新聞が取り上げて、訴えた弁護団を擁護しないと、どうなってしまうのでしょうか。
●「ドラえもんが助けてくれると思った」、●「ちょうちょ結びをしただけ」などの安田好弘弁護士が被告を弁護する言葉だけが思い出されてしまうと思います。そして、やり方は悪くとも弁護団が批判されたのは橋下知事のお陰と思われては困るのでしょう。橋下知事が死刑存続派のヒーローになりかねませんから。

もしかすると、死刑存続派の弁護士自体が注目されるのが嫌なのかも知れません。
実は、自民党丸山和也参議院議員のように死刑存続派の弁護士は珍しくは無いのです。
しかし、たいていの死刑存続論議の時には、そういう弁護士はメディアからは呼ばれません。
日弁連を始めとする死刑を廃止したいと考える法律の専門家と、感情論で死刑の存続を訴える法律の素人と云う構図が崩れる事自体が朝日新聞死刑廃止論者には都合が悪いからでしょうか。
私には、そうでも考えないと朝日新聞橋下知事を嫌う理由が解りません。

社説全文は以下

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橋下知事判決―「重く受け止める」なら
 橋下徹大阪府知事のタレント弁護士時代の発言が、再び司法の場で厳しく批判された。

 山口県光市の母子殺人事件をめぐり、橋下氏は07年春、大阪の読売テレビ制作の番組で、少年だった被告の弁護団を批判し、「弁護団を許せないと思うんだったら懲戒請求をかけてもらいたい」と視聴者に呼びかけた。

 その発言をきっかけに大量の懲戒請求を受けた弁護団が損害賠償を求めた裁判の控訴審で、広島高裁は橋下氏に総額360万円の支払いを命じた。

 一審が名誉棄損と認めた一部の発言について、高裁判決は番組の流れを検討したうえで、それを認めず賠償額を減額したものの、橋下氏にとっては2度目の敗訴である。

 橋下氏は発言について、懲戒制度の説明だったと主張したが、判決は「弁護士として懲戒請求に理由がないことを知りながら、あたかも理由があるかのような誤った発言をして誇張的に呼びかけた」と指摘した。

 懲戒の理由がないのに、その請求をしてはいけないのは当然だ。虚偽の理由にもとづいて懲戒請求をした場合、刑事責任を問われることもある。橋下氏は判決の指摘を真剣に受け止め、反省しなければならない。

 広島高裁の判断は、次のようなことだ。橋下氏は少年の弁護内容の当否を論ずるほどの情報がなかったのに、弁護団を一方的に指弾した。視聴者が一斉に懲戒を申し立てれば、弁護士会も懲戒処分を出さないわけにはいかない、という趣旨の発言は誤りである。

 そう指摘したうえで高裁は、「圧倒的な影響力を持つテレビ放送という媒体を利用し、虚偽の事実をないまぜにして視聴者に弁護団の非難に加わることを求めた」と不法行為を認めた。

 橋下氏は判決後、懲戒請求を呼びかけた発言が違法とされたことを「重く受け止めます」とする一方で、「言論活動がどこまで認められるのか判断を求めたい」と上告する意向を示した。

 上告するのはもちろん自由だが、この姿勢は分かりにくい。

 知事としての橋下氏の発信力、行動力は評価できる。政府の直轄公共事業への負担に異議を唱え、その対応を変えさせる原動力となった。新型の豚インフルエンザの感染が広がった時には厚生労働省の対応に注文をつけた。

 歯切れのいい発言で世論を味方につけ、既存の政府の政策にいどんだり政党にもの申したりする力量は、なかなかのものだ。政権交代がありうる状況の中で、地方分権を政治の大きな争点に押し出す役割を果たすことになるかもしれない。

 だからこそ、いつまでもこの問題を引きずらず、弁護団に謝罪してけじめをつけてはどうか。それが政治家としての飛躍の条件ではないか。