朝日社説の豹変:「自民党政権の時効撤廃は、汚い撤廃で、民主党政権の時効撤廃は綺麗な撤廃」

http://d.hatena.ne.jp/oguogu/20100131/1264927264
酔っ払いのうわごと 2010-01-31 1peck1qt 2gill4fi oz
■[朝日新聞][司法・裁判]時効撤廃―考えを何時変えた より

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時効撤廃―人権の重さを賢く法に
(cache) asahi.com朝日新聞社):社説 2010年1月31日(日)
http://megalodon.jp/2010-0131-1216-18/www.asahi.com/paper/editorial20100131.html
 殺人など死刑にあたる罪の時効を撤廃し、強姦(ごうかん)致死や危険運転致死などの罪についても今の時効期間を倍に延長する。長く議論されてきた「時効」について法務省が改革案をまとめた。今国会に法案が提出される方向だ。
 未解決のまま時効を迎える殺人事件は年に50、60件を数える。時効制度は明治初期にできたが、捜査の手法や技術、そして被害、加害をめぐる社会の人権意識は大きく変わった。
●時代変化の中での改革案を支持したい。
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今日の社説で朝日新聞は、時効撤廃を支持しています。しかし、過去には、違った意見の社説を書いているのです。それも去年の5月に。まだ1年も経っていません。

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時効見直し―多角的な議論をもっと
(cache) asahi.com朝日新聞社):社説 2009年5月31日(日)
http://megalodon.jp/2009-0531-1200-33/www.asahi.com/paper/editorial20090531.html
 時効の見直しをめぐっては、(1)対象事件の範囲をどうするか(2)捜査体制は追いつくのか(3)法改正時に、未解決のまま時効が進行中の事件にも適用すべきか、など多くの論点がある。
 法務省の見直し案には、撤廃のほかに、延長やDNA型による起訴、検察官請求による時効停止・延長といった選択肢も示されている。
 公訴時効については4年前に延長されたばかりだ。
●時効は司法の根幹にかかわる。国会だけでなく、国民の間でも、じっくり、多角的に論議する必要がある。
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果たして、この二つの社説の間に『じっくり、多角的に論議』は成されたのでしょうか。法務省内部では、されたのかも知れませんけれど、少なくとも国会では議論されていません。国民の間でもです。朝日新聞が挙げた論点も(1)の『対象事件の範囲をどうするか』こそ法務省で検討されたようです。しかし、(2)の『捜査態勢は追いつくのか』と(3)の『進行中の事件にも適用すべきか』は、まだ決着を見ていないのではないのですか。

私は、問題が残っているにも関わらず、朝日新聞が慎重派から賛成派に転じたのには納得がいきません。単純に政権が自民党から民主党に代わっただけで意見を変えたように思えるからです。自民党政権の時効撤廃は、汚い撤廃で、民主党政権の時効撤廃は綺麗な撤廃とでも言っているようにさえ感じてしまいます。

私は、去年の社説と今年の社説の何処が一番違っているかを比べてみました。すると殆どの論点が代わっていない事に気がつきました。朝日新聞は、同じ論点であるにも関わらず、コロッと意見を変えたのです。<<去年>>
 時間がたつほど、アリバイや被告に有利な証言は探しにくくなり、十分な弁護活動ができない。捜査機関がDNAを適正に集めていなかったり、きちんと保管していなかったりして、犯人以外のDNAが紛れ込んでいる恐れもある。DNA型鑑定だけを頼りにすると冤罪が起きる可能性がある。<<今年>>
 犯人とは別人のDNA型が紛れ込む恐れもある。犯人ではない人が逮捕、起訴されても、アリバイなど無罪を立証する証人はすでに亡くなっていて、DNA型鑑定をもとに自白を迫られるという事態が起きかねない。

朝日新聞の時効を存続するべき理由の説明です。言葉の順番が違うだけで同じだという事が解ると思います。ただ、一点だけ大きく違うところがあるのです。それは今年の社説では論説委員の言葉で説明されているのに対し、去年は、そうではありませんでした。去年の社説は、時効の存続を望む『日本弁護士連合会や一部の被害者』の言葉として書かれているのです。今年の社説には、存続を望む人が登場しないのとは対照的ではないのでしょうか。

結局、朝日新聞の去年の社説は、政局だったのでしょう。少しでも自民党を有利にさせたくないので、時効撤廃は慎重にと書いたのだと思います。そうで無ければ、短期間で論調が変わる意味が解りません。それにしても存続派を登場させるだけで、慎重派の意見をもっともだと思わせてしまうのですから朝日新聞論説委員の文章力は大した物(皮肉)です。


今年の社説全文は以下、去年の社説は『時効撤廃と冤罪防止、そしてDNA型鑑定 』に
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時効撤廃―人権の重さを賢く法に

 殺人など死刑にあたる罪の時効を撤廃し、強姦(ごうかん)致死や危険運転致死などの罪についても今の時効期間を倍に延長する。長く議論されてきた「時効」について法務省が改革案をまとめた。今国会に法案が提出される方向だ。

 未解決のまま時効を迎える殺人事件は年に50、60件を数える。時効制度は明治初期にできたが、捜査の手法や技術、そして被害、加害をめぐる社会の人権意識は大きく変わった。時代変化の中での改革案を支持したい。

 時効の撤廃をめぐってはなお、さまざまな考え方があるが、大事なことは国の法制度として犯罪にどう向き合うかということだろう。

 時効を見直すことで、犯罪を許さないという強い姿勢を示す意義は大きい。再犯や類似犯罪を防ぐという意義もある。欧米ではすでに重大事件の時効を廃止している国が少なくない。

 難題は残る。時効見直しを過去の事件にもさかのぼって適用するかどうかだ。法務省案では、実施時点で時効になっていない事件にも適用するとしている。これも一理ある。

 だが、ある時点で法的に許された行為はさかのぼって罰しない、という憲法の原則に照らして妥当かどうか。時効の撤廃や延長は処罰にあたるのではないか。国会での真剣な憲法論議を望みたい。

 時効制度の変更にあたって法務省国家公安委員会に望みたいのは、冤罪を防ぐ制度も同時に整備することだ。

 時効制度が許容されてきたのは、発生から長期間が過ぎると証拠が散逸してしまい、公正な裁判が難しくなるためだ。近年、DNA型鑑定の精度が飛躍的に上がったため、現場に残された犯人のDNA型を保存しておけば、時間がたっても容疑者を特定できることが可能になった。このことが時効撤廃論に弾みをつけた。

 捜査中に採取したDNA型の試料は、再鑑定に十分な量を最適の環境で保管することを、捜査当局に法的に義務づけることが必須だ。法務省はそのための法的な検討を並行して進めてもらいたい。

 犯人とは別人のDNA型が紛れ込む恐れもある。犯人ではない人が逮捕、起訴されても、アリバイなど無罪を立証する証人はすでに亡くなっていて、DNA型鑑定をもとに自白を迫られるという事態が起きかねない。

 DNA型鑑定を過信してうその「自白」を強いたために起きた「足利事件」のような冤罪は、二度とあってはならない。それを防ぐには、一つには、取り調べの様子をすべて録画・録音する全面可視化を、同時に法制化することだ。捜査の誤りをできるだけなくすために、可視化の対象は容疑者だけでなく、未解決事件の被害者や目撃者まで広げるべきではなかろうか。